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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)1386号 判決

控訴人

川本竜平

右訴訟代理人

黒田喜蔵

外一名

被控訴人

杉本秀雄

右訴訟代理人

大沢憲之進

被控訴人

吉野勇

主文

一、被控訴人杉本に対する本件控訴を棄却する。

二、原判決中控訴人と被控訴人吉野に関する部分を次項のとおり変更する。

三、被控訴人吉野は、控訴人に対し、金一、六五〇万円及びこれに対する昭和四六年一一月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四、訴訟費用中、控訴人と被控訴人吉野との間に生ずた分は、第一、二審とも同被控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人杉本との間に生じた控訴費用は控訴人の負担とする。

五、本判決は第三項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

当裁判所の判断は、次に附加訂正するほか原判決理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決六枚目表三行目の「艶雄」の次に「(原、当審)」を、四行目の「結果」の次に「被控訴人吉野の当審供述」を各挿入し、原判決理由第二項を次のとおり改める。

二 被控訴人杉本の不法行為責任について

(1)  甲から不動産を買受けた乙が、丙と通謀して、丙に所有権を移転する意思がないのにかかわらず、甲から丙に所有権移転登記を経由し、丙が登記名義を乙に返還しないので、乙が丙に対する処分禁止の仮処分を得て右仮処分の登記を経由した後、丁が、丙と右不動産を買受ける契約を締結し、丙に右代金を支払い、右代金と同額の損害を受けた場合、丁が受けた右損害につき、乙の不法行為責任は成立しない、と解するのが相当である。けだし、丁が受けた右損害は、右仮処分登記経由後に生じたものであつて、乙の虚偽登記行為と相当因果関係(不法行為成立要件としての因果関係)がないからである。

(2)  被控訴人杉本は、他から本件不動産を買受けた後、被控訴人吉野と通謀して、同人に所有権を移転する意思がないのにかかわらず、売主から被控訴人吉野に所有権移転登記を経由したところ、同人が勝手に悪意の佐藤忠良に所有権移転登記を経由したので、被控訴人杉本は、被控訴人吉野および住藤に対する処分禁止の仮処分を得て右仮処分の登記を経由し、その後佐藤は名阪建設工業株式会社に所有権移転登記を経由した。その後控訴人は、右仮処分登記経由の事実を知りながら、右仮処分は理由がない旨の被控訴人吉野の虚言を軽信して、名阪建設と右不動産を代金一、六五〇万円で買受ける契約を締結し、名阪建設に右代金を支払い、右代金と同額の損害を受けた(原判決理由第三項)。したがつて、(1)の法理により、控訴人が受けた右損害につき、被控訴人杉本の不法行為責任は成立しない。

2  原判決八枚目表二行目の「艶雄」の次に「(原、当審)」を、「結果」の次に「被控訴人吉野の当審供述」を、同表末行に「その直後、名阪建設は倒産した。」を各挿入し、九枚目表一〇行目の「しかしながら、」を「したがつて、被控訴人吉野は、控訴人に対し、右損害の賠償として右同額の金員を支払う義務がある。なお、」と改め、九枚目裏二行目の「原告」から、同四行目までを、「控訴人にも過失があたことは明らかであるが、控訴人が本件山林を買受けるに至つたのは、被控訴人吉野の欺罔行為によるものであるから、被控訴人吉野の負担すべき損害賠償額を定めるにつき右過失を斟酌するのは相当でない。」と改める。

3  よつて、控訴人の被控訴人杉本に対する請求はこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当で、同被控訴人に対する本件控訴を棄却し、控訴人の被控訴人吉野に対する請求はこれを認容すべきであり、これと異なる原判決を変更し、民訴法九五条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小西勝 入江教夫 和田功)

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